認知症の高齢者の中には、食事への関心や意欲が低下し、自発的に食事を食べて下さらない方もいらっしゃいます。
十分に食事が摂れなければ、ご本人の栄養状態の悪化だけでなく、介護をする側も大きな負担となります。
この記事では、認知症の高齢者が食事を積極的に食べて下さるように促すための、効果的な声かけ方法の成功事例をご紹介します。
認知症高齢者が「食事を食べない」本当の理由とは?
ある認知症の高齢者の方との関わりの中で、食事の場面で課題に直面しました。
その方は、
- 食べ物を認識する
- 箸を使う
- 口元に運ぶ
といった基本的な食事動作は問題なくできます。
しかし、例えば、
- 「温かいうちにどうぞ。」
- 「冷めてマズくなる前にお召し上がり下さい。」
のように、正攻法的な声かけをしても目の前に出された食事になかなか手を付けて下さいません。
仮に介護者が食べ物をその高齢者の口元まで持って行っても、食べるのを拒否されます。
その高齢者は自発的に食事を始める意欲の低下によって、食事をなかなか食べて下さらなかったのです。
【成功事例】積極的に食べてもらうために効果的だった声かけ方法
そんな中、ある声かけを試してみたところ、積極的に食べて下さるようになりました。
ステップ1:効果的な質問で食べるきっかけを作る
先ず、食卓に並んだおかずを一品指しながら、
「これ、おいしかったですか?」
と質問形式で尋ねます。
認知症の影響もあり、すぐには答が出てこないご様子です。
ステップ2:自然な流れで食べるという行動へ誘導する
そこで、続けて
「おいしいかどうか、食べてみて下さい。」
と促します。
すると、その高齢者は、「おいしいかどうか答えなければ」と思ったのか、促された料理を一口食べて下さいました。
ステップ3:食べ続けてもらうための布石
一口召し上がったタイミングならば味の感想を言葉にしやすいはずなので、
「おいしいですか?」
と改めて尋ねます。
この質問に対する答が何であっても、次の声かけに自然に持って行くことができます。
ステップ4:食べ続けてもらう流れを作る
返ってきた答が「おいしい」ならば、
「ご飯も一緒に食べると もっと おいしいかもしれませんよ。食べてみて下さい。」
と声をかけます。
返ってきた答が「おいしい」ではないならば、
「ご飯も一緒に食べるとおいしいかもしれませんよ。食べてみて下さい。」
と声をかけます。
そうするとその高齢者は、促されるままに、ご飯も食べて下さいました。

このような声かけ方法で、この高齢者に積極的に食べ進めていただくことに成功しています。
なぜこの声かけ方法が効果的だったのか?【心理学的解説】
この声かけ方法が成功した背景にある心理学的な仕組みを解説いたします。
- 人間の脳は、質問を受けると答を探そうとする
- 何かを成し遂げるための必然かつ最大のハードルは始めること
- 一度始めた行動は継続しやすい
- 目標を達成するコツは、その目標が必然の通過点となるその先の目標を達成すること
「コレ、おいしかったですか?」と先ず質問することが、質問に答えるために “食べる” という行動を自然に促すきっかけになったのです。
介護をする側にとっては食べてもらうことが目標なのですが、介護される高齢者にとっては質問に答えることが目標で食べることは必然の通過点という構図を作り上げたのです。
一度食べ始めると、それによってスイッチが入り、食べるという行為を繰り返すことが楽になり、食べ続けてもらうことに成功したのです。
認知症ケアにおける声かけの重要性〜高齢者の自立支援と介護者の負担軽減を〜
今回ご紹介した方法により、認知症で意欲が低下している高齢者でも、自力で食事するように促すことに成功しています。
あなたが介護している高齢者が似たような状態でしたら、今回ご紹介した「これ、おいしかったですか?」から始まる声かけ方法をぜひ一度試してみて下さい。
そして、自力で「おいしく」食べて下さることで、高齢者の生活の質(QOL)も向上し、介護者の負担も軽減されたならば幸いです。